2010年10月27日水曜日

バックグラウンド対策(2)


バックグラウンド対策の続きです。

前回の最後の写真はミラーのホルダーで、上の段に偏極ミラー、下の段に0.3mmのシリコンに約80nmのNi薄膜を乗せたミラーが据え付けられています(Niミラー/偏極ミラーは京大原子炉の日野准教授に作成していただきました)。
偏極ミラーはそこから反射してきた中性子を使うことで偏極解析を行う、いわゆるアナライザですが、Niミラーは中性子を透過させることによって長波長の中性子を落とすフィルターになります。
上の図はミラー位置の調整中に測定した、透過中性子のTOFプロファイルです。
エネルギーの低い(波長の長い)中性子ほどミラー内部へ進入しにくいのですが、ある波長を超えると中性子が完全に反射されてしまう(全反射)ため、図中矢印の箇所で急激にカウント数が減っています。
しかし、この状態だと使いたい波長の中性子まで切ってしまっているので、もっとビームを深い角度で入射させて中性子が透過しやすくなるようにしてあげます。
今回はだいたい2nmよりも長い波長の中性子が全反射するようにミラーの角度を調整しました。
2.1nmよりも短い波長の中性子はディスクチョッパーで切ることができるので、これで実際に使いたい波長の中性子のみを取り出すことができるわけです。


今回の対策により、実際どれくらいバックグラウンドが下がったか測定するために、Si基板からの反射率を測定しました。
実は、以前Si基板からの反射を測定した際は長波長中性子のバックグラウンドでうまく反射率が測定できなかったのですが、今回はきれいな反射率プロファイルを得ることができました。
これは「バックグラウンド処理をしていない」純粋な入射中性子と反射中性子の強度比から計算した反射率プロファイルなのですが、バックグラウンドレベルは10^-7に迫ろうとしています。
心の中ではバックグラウンドが10^-7を切ってくれるのではないかと期待していたのですが、例えばSNSの中性子反射率計の測定限界が10^-7となっているので十分に合格点と言って良いでしょう(十分に統計をためればバックグラウンドを差し引いて10^-7より低い反射率も測定可能だと思われます)。
ただ、完全にフラットな基板からの反射だとQ^-4に比例して減衰していくのですが、弱くて大きな干渉が見えているのがちょっと気になります。
細かく角度を振ってプロファイルは重なっているので基板そのものの構造が出ている(汚れてた?)のだと思っているのですが、その辺はもう少し検証が必要かもしれません。

しかし、装置調整もうまくいったし、いよいよ試料を測定しようと思ったその矢先!…残念なことに中性子源にトラブルが起きてビームが停止してしまいました。
今のところ次のrun#36(11/7-)には実験再開の予定です。

2010年10月21日木曜日

BL16中性子反射率計研究会

日時:2010年11月15日 13:30~18:00
場所:高エネルギー加速器研究機構4号館2階輪講室1(茨城県つくば市大穂1-1)
参加費:無料
プログラム:
13:00 - 13:10 はじめに(KEK 瀬戸秀紀)
13:10 - 13:30 試料水平型中性子反射率計ARISA-IIのアップグレード(KEK 山田悟史)
13:30 - 13:50 高分子薄膜のガラス転移と脱濡れ(京大 金谷利治)
13:50 - 14:10 非溶媒界面における高分子の凝集状態(九大 田中敬二)
14:10 - 14:30 環状高分子/線状高分子積層膜界面の相互拡散挙動に及ぼす環状高分子の分子量の影響(名大 川口大輔)
14:30 - 14:50 ナフィオン超薄膜の構造解析(豊田中研 原田雅史)
14:50 - 15:10 コーヒーブレイク
15:10 - 15:30 中性子/X線反射率法を用いたDLC 膜及び重水素化DLC膜の水素・重水素の定量について(茨大 尾関和秀)
15:30 - 15:50 In situ中性子反射率法によるリチウム電池電極界面構造の解析(東工大 菅野了次)
15:50 - 16:10 新反射率計の設置に向けて~現在の進捗状況と今後の見通し~(九大/JST 御田村紘志)
16:10 - 16:30 ERATOソフト界面プロジェクトにおける中性子反射率測定の今後の展開(九大/JST 高原淳)
16:30 - 17:30 自由討論

 J-PARC/MLFのBL16に設置された中性子反射率計ARISA-IIは、昨年度末より本格的な中性子反射率測定が可能となりました。その後は順調に成果を重ね、ARISA-IIのデータによるscientific paperも受理されてました。また、装置のアップグレードも順調で、この夏にはさらなる反射率の測定限界(R<10^-7)を目指して機器の増設を行っております。
 BL16中性子反射率計研究会では、これまでARISA-IIの装置の詳細や、ARISA-IIで行われた実験結果について情報交換を行うと共に、将来の展望についても議論を行う予定です。本研究会はKEK中性子共同利用S型課題の予備審査会を兼ねるものですが、研究会としてはオープンなもので、多くの方に中性子反射率計を用いた研究を知っていただくことを目的としています。大学院生を含めて旅費支給が可能ですので、興味をお持ちの方は下記のURLを参考にご登録をお願いします。
http://www.kek.jp/imss/topics/images/KEK-S08_program.pdf

皆さまのご参加をお待ちしております。

高エネルギー加速器研究機構 瀬戸秀紀
九州大学大学院工学研究科 高原淳

バックグラウンド対策(1)


今回、バックグラウンド対策としてT0チョッパーを設置し、高速中性子の除去を試みました。
中性子反射率計は主に長い波長の中性子を使うため、ただ設置するだけでは大きなメリットはないのですが、使用する波長を定義するディスクチョッパーを半分の回転数で動作させることにより、使える波長範囲を倍にすることができます。
これは、時分割測定のように広いQ領域の同時測定が求められる場合に有効な手段です。

ということで、T0チョッパーの設置に合わせてディスクチョッパーを25Hz→12.5Hzで動くように改造しました。
早速12.5Hzで動かして入射中性子の波長分布をみたのですが、第2フレームの頭に変なピークが観測されてしまいました。
40msぐらいのものすごく鋭いピークはT0チョッパーでも止められなかった高速中性子のピークです。
これはほんのせまい領域の中性子が使えなくなるだけなのでまだ良いのですが、そこから少し遅れたところにもう1つピークが現れています。
原因を調査してみたところ、これは高速中性子ほどではないけれど、それなりにエネルギー(すなわち透過力)が高い熱外中性子であることが分かりました。
これはディスクチョッパーで止めるべきものなのですが、元々は高いエネルギーの中性子を相手にする予定ではなかったため、遮蔽がたりなかったようです。
現在はディスクチョッパーの遮蔽材としてガドリニウムを薄く塗布したものを使用しているので、これを変更して熱外中性子を止められるよう検討しています。


そしてもう1つ、バックグラウンド対策を用意しています。
今日調整が終わり、現在その効果を検証中です。

2010年10月16日土曜日

run#35開始


夏の工事が終わり、run#35がはじまりました。
BL16では、色々と機器を設置したのでその調整を主に行う予定です。

実は、runの直前に遮蔽体をあけなくてはならない重大な故障が見つかって冷や汗をかきました。
(遮蔽体復旧のタイムリミット1時間前に無事復旧)
今日は今日で今まで動いていた装置がトラブルに次ぐトラブル発生。
やっつけてもやっつけても新しい敵が現れ続け、結局今日は未解決の問題をいくつか抱えたまま撤収しました。
余裕を見て調整期間をとってあるので何とかなるとは思うのですが、こうもトラブルが続くと胃が痛いです。

2010年10月4日月曜日

続・T0チョッパー


うまく動作していなかったT0チョッパーですが、今日ようやく期待の動作をしてくれました。
ちゃんと25Hzで回転し、希望の回転位相をちゃんと保ってくれています。
実は、写真は別の装置の制御盤をお借りして動作テストをしたものなのですが、その後BL16用の制御盤でもちゃんと動作することを確認しました。

明日以降はさらに調整を詰めていく予定です。